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NPO法人 フェアスタートサポート

2016FITチャリティ・ラン支援先団体である「NPO法人フェアスタートサポート」は、虐待や貧困等の家庭の事情により児童養護施設等で過ごす子どもたちや退所した若者達に対して、就労支援を行っている団体です。社会的養護の下で生活している子どもたちは18歳で児童養護施設等を巣立たねばなりません。生活費や学費を稼ぐため、アルバイトと両立しながら、定時制通信制高校に通学する生徒もいます。社会的養護の対象となる子どもたちの多くは、18歳という年齢で施設を出、就職をして社会人として生活していく道を選択しますが、その「就業」への機会は、決して公平には与えられていないとういうのが現状です。フェアスタートサポートは、施設等を巣立つ若者達が公平なスタートラインに立ち、社会へ羽ばたいていけるよう、公平な機会を作ることを目標としています。今回は、代表理事 永岡鉄平さんにお話をお伺いしました。


NPO法人 フェアスタートサポート 代表理事 永岡鉄平さん

FITご自身について、またフェアサポートスタートを立ち上げたきっかけを教えてください。
永岡:遡れば色々ありましたが、30歳までに起業をしたいという目標が元々ありました。そのために何をすべきかと考えて社会人生活を送っていました。まず大学を卒業して2年間リクルートで営業をし、そこで出会ったお客様が、大学院生を対象に就職支援を行う会社を立ち上げたのをきっかけに、その会社に転職をしました。

当時は、高学歴ワーキングプアが社会問題として取り上げられ始めた頃で、事業内容が大学院卒という高学歴者への就職支援だったため、しばしばメディアにも取り上げられることもありました。立ち上げに関わることで色々勉強になりましたが、何より自分の視野が広がったと思います。「社会的な課題」を見て、その課題に対してビジネスを提案していくという考え方を知ることができたことが大きかったと思います。その仕事がとても面白く見えたのです。そういう視点で社会を見ることで、自分の中ですごく興味が沸きました。それまで色々な中小企業と関わりも多かったのですが、人材不足で苦しんでいる中小企業の現状を目の当たりにする一方で、新聞等ではニートや若年無業者、若年層フリーターが増えているという。会社は労働力がほしい、でも若者が働いていないと。需給環境を見ると、これは大きな社会的損失だと思いました。これを何とかすることができれば、やりがいのあることだなと。

こうして起業のテーマは決まったので、企業の準備として28歳の時にその会社を辞め、このマーケットで自分にしかできない価値は何だろうと考え始めました。そんな時に「子どもの貧困」がテーマのシンポジウムに行きました。そこでは児童養護施設の話がされていて、家庭環境に何かしらの問題があるために施設に入り、18歳で施設を出て就職するものの、うまくいかないケースも多く、ワーキングプアになり貧困の連鎖が繰り返されている若者が多いという事実を知りました。日本の若い労働力をどう最適化できるかと考えている中で耳にした話だったので、自分にとってはすごい衝撃でした。

働く意欲がない人を働かせるのは難しい問題だと思いますが、働く意欲があるにも関わらずなぜ働けなくなるのか、原因を知りたくて実際に鎌倉の児童養護施設でボランティアをさせてもらいました。ボランティアをしながら施設にいる子どもたちに話を聞いたのですが、施設にいる高校生たちは、大体アルバイトをしているのです。18歳で施設を出なくてはいけないので、きちんと将来のことを考えて、貯金もしているのです。そんな子どもたちと接してみて、「非常にえらいな」、「いい子たちが多いな」という印象を受けたので、これは本人に内在する問題だけではなく、本人達を取り巻く環境要因にも問題が何かあるのではないかと調べてみました。

彼らの就職活動の流れや就職先の傾向を分析したときに、その理由が見えてきました。そのうちの一つは、住み込みで就職している割合が多いことです。就職先を選ぶ基準として、仕事の内容を優先するのではなく、社員寮があるかどうかを最優先に就職先を探している傾向が高いことに驚きました。高校卒業したら、施設を出なくてはいけないので、「社員寮があるところの方がお得」と。こうした価値観が強い感じがしました。


就労体験に参加している若者たち

無理もないなと思うのですが、彼らの周りには就職相談できる大人がいないのです。施設の職員さんの多くは保育士さんですし、企業と関わりがある人はほとんどいません。また、職員さんは、普段の仕事に加えて就職支援まで手が回りません。高校も、本人の意思決定に任せており、マッチングまで意識した適切な指導がされていないケースも多いように感じました。社会に出るための教育が殆どされていない状況の中で、とりあえず社員寮のある所で仕事を探したら、それは本人と仕事のミスマッチを起こすなと。ワーキングプアになる原因として大きいのは、最初に就職した会社を短い期間で辞めてしまうこと。躓いた時に頼れる大人も周りにいなくて、転職の仕方もわからない。とりあえずアルバイトをして20代が終わるといった現状があり、これはすごくもったいないなと思いました。

そして、施設にいる間に、住み込み等の条件による選択ではなく、「自分はこの仕事がしたい」「自分にはこれが向いている」という仕事を見つけられるよう、本人がきちんと意思決定できる教育が必要だろうと感じました。場合によっては会社との仲人をする。そして就職後も、最初は環境も変わってナーバスになることも多いのでフォローが必要だろうと。

こういったサポートができれば、「こんなはずじゃなかった」と、短い間に会社を辞める子も減るでしょうし、自分に合った仕事をすることで安定した収入を得ることができ、貧困の連鎖から解き放たれる若者が増えていくだろうと。また、企業とっても人材を確保することにつながりますし、国にとっては就労人口が増えれば税収も増えます。こうした好循環を作り出すことができればやりがいがあるな、と思ったのがフェアスタート設立のきっかけです。

FIT施設出身者がワーキングプアになるという現実は、どうすれば改善していけるのでしょうか。
永岡:機会提供につきると思います。
生きていくのは本人ですから、いかに本人が主体的に意思決定をし、自分自身で取捨選択をし、必要なものを選び取っていくかというプロセスが必要だと思います。残念ながら、児童養護施設という世界と企業という世界の間には、まだまだ壁があると思います。社会的養護という名の下に国が保護している子どもたちなので、部外者が口出しすることではないのかもしれませんが、やはり色々な面で分断されていることが多いと感じています。
「児童養護施設の子は夢が持てない」と言われることもあるのですが、それは無理もなくて、そもそも社会に何があるのか分からないのです。自分自身の将来についての栄養をキャッチできる機会が不十分だと思います。だから、私たちも色々な会社につれて行ったり、場合によってはインターンシップ等の機会を提供したりしながら、「好きなように生きてよいのだよ」ということを伝えるようにしています。そういった機会は、我々第三者が動かないとなかなか届きません。

FITご自身の活動が実を結んでいるな、と感じるときはどういう時ですか?
永岡:短期での離職という課題をみた時に、高校1、2年生の早い内から我々が支援し、2016年の4月付で就職した若者たちが7名いますが、1年半以上たった現在でも、まだ誰も辞めていないのです。これは一つの成果だと思っています。

東京都が児童養護施設出身の若者にアンケートを取ったところ、就労1年以内に約40%の若者が仕事を辞めているのです。アンケートで回答のあったうちの40%なので、実際の数字はもっと多いと思いますが、埼玉県が行った調査では75%が3年以内に辞めています。高校生は辞めやすので、全体の高卒生の離職状況より少し多いくらいなんですが、それと比較してもこれは成果だと思っています。

また、支援した若者が仕事を初めて最長で約6年なのですが、ある若者が就職して4年くらいたった時に、「永岡さん、私に大卒の部下ができた」と言ってきたのです。その若者は、家庭環境の問題で大学に行けなかったのですが、大学に行けなかったことに対してコンプレックスを持っているように見えました。でもその話を聞いた時に、何というか、その若者もコンプレックスから解き放たれたなと、今の自分に満足したなと、そう感じられて、その瞬間はいい仕事ができたのではないかなと思いました。そういう若者が出てきて、報告をもらえると嬉しいです。

FIT若者たちからの報告以外に、嬉しいと思うのはどんな時ですか。
永岡:ある若者が、自分のいた施設にお土産を持って行ったという話を聞いたときは嬉しかったです。まだまだ自分の生活だけで精一杯な年齢だと思います。そんな時に、自分ではなく第三者にお金を使えるということ、余裕ができたのだなと感じられて嬉しかったです。

その他には、今年は、全国社会福祉協議会から、児童養護施設の職員を集めたセミナーでの発表の機会があり、フェアスタートの活動内容や成果の発表の場をいただきました。また、ある機関からは事業のご依頼もいただき、これまで扱った就職サポートのケースをドキュメント化して、就職のマッチング精度を上げていこうという取り組みを行っています。こういう公的な所からお声がかかったことは嬉しかったです。そういった機関とタイアップすることによって、全国的に発信することができるのでフェアスタートのネームバリューが広がっているのを感じています。この7年位の活動を認めてもらえたのかな、と実感できることは嬉しいです。

活動が広がると人を雇うこともできます。昨年、里親出身の若者を社員として雇用しました。自社でも雇用を通じで活動に関わることができる。可能性が広がりました。活動が広がれば広がる程、自分が考えている仕組みが世の中に整備され、それによってサポートされる若者も増えるでしょうし、整備さればされるほど、自社でも雇用という形で応援できる。そうやって、色々な形で広がっていくというののも楽しいですね。

FIT今後、全国的にそういった仕組みを広げていくことを目標とされていますか?
永岡: これまで神奈川を中心に活動を行ってきましたが、今年から関東にエリアを広げて、群馬、茨城、静岡、栃木、千葉、埼玉にも定期訪問を開始しています。先月は群馬で地元の中小企業数社と児童養護施設の職員さんを集めて意見交換会も行いました。その際、ある施設の職員さんで、「実は自分たちも企業と関わりを持ちたかった」と言ってくださった方がいました。職員さんは、子どもたちが施設を出た後も心配なので、企業と繋がりたいと思っていたけれども、繋がり方が分からず、就職相談は高校に委ねるしかなかった。委ねることによって、退所者達の離職リスクも分かっていたが、かといって地域の企業を開拓するだけの余力はなく、子どもたちをとりまく現状を変えることができなかったのだと。その話を聞いた時に、色々な地域で活動を行って良かったなと思いました。「きっと施設も企業と繋がりたいと思っているだろう」という、自分の中で考えていた仮説が当たった瞬間でもあります。


NPOフェアスタートサポートさんにより行われた会社見学

FITフェアスタートから羽ばたいていった若者たちのOBOG会はあるのですか?
永岡:クリスマス会や新年会などシーズンごとに開催しています。また、3月には就職が決まった新社会人をお祝いする会を行っています。定期的に顔を合わせる機会があると仲間と会えて楽しいですし、それだけにとどまらず、会の目的としては、いい相乗効果を出せればなと思っています。基本的には前向きに頑張っている若者たちの集まりなので、お互いに良い刺激になってくれればと思い、こういう場を設けています。

FITそういった触れ合いの中で、ご自身の取り組みへの改善点等に気づくこともあるのでしょうか?
永岡:改善点に気付くという点で言えば、支援した若者が「退職する」時に内省はあります。どうすれば離職を未然に防げたのかなと考えます。本人たちとしっかり向き合い、ノウハウの精度を高めていくしかないなと思っています。


FIT今後の目標をお聞かせください。
永岡:児童養護施設出身の若者たちがワーキングプア―になってしまうという現状を見た時に、テクニック的な所で我々のようなコーディネーターが環境整備をするというのは一つの手法だと思います。しかし、全国レベルでそういう存在がいないというのが現状なので、一朝一夕にはいきません。

では、どうすれば良いのかと考えた時に、施設と企業が直接つながれば、そこから始まる色々なことがあるのではないかと思っています。子どもたちの社会性の育成や、より手堅い就職サポート行いたいという施設があれば、企業と顔が見える関係性の中で、繋げていければと思っています。それにより、色々な良さが生まれると思います。

例えば、今の高校生は、良い意味で世界が狭く地元への就職意識が強い印象です。しかし、地方では若者達の県外流出が多いのも実情です。地方経済からすれば痛手ですよね。探せばまだまだ元気な中小企業は沢山あるのに、若者はある意味偏見を持って勘違いをして、「地元には就職先がないから、東京に行くか」というように地元を離れて痛い目をみることも多いはず。早い時期から地元の企業に触れることで、「地元も捨てたことないな。いい会社あるじゃん」と思ってもらえれば、地元に就職する子もいるのです。地元なら就職後の不安も軽減できますし、地方に雇用も生まれますし、みんなハッピーになれますよね。労働力人口としての可能性を最適化するというのはもちろんですが、同時に地方の地域経済も活性化させることができたら、社会的なインパクトもあるなと。これを全国に広げていきたいと思っています。

まだまだ人材は社会に眠っていています。例えば定時制の高校に通っている生徒たち。彼・彼女らは進路未決定のまま卒業する割合が多いのです。神奈川県でいうと40%が進学も就職もせず卒業している現状があります。働かないか、フリーターになるかのどちらかなんですよね。これもまた「もったいない」ですよね。

日本の社会には、やり方次第で最適化できる若い労働力があるので、そこは児童養護施設に限らず、色々なところと関わっていければと思います。

FIT貴重なお話をお聞かせいただきましてありがとございました。

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