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特定非営利活動法人バイリンガル・バイカルチュラルろう教育センター

2018年に支援先団体として選ばれた特定非営利活動法人バイリンガル・バイカルチュラルろう教育センターは、ろう児(聞こえない・聞こえにくい子)が、日本手話と書記日本語(読み書き)の2言語で教育を受けることを支援しています。更に、ろう児が聞こえる児童と同じように力を発揮することができ、その力が正当に評価される社会づくりをすすめている団体です。代表理事の玉田雅己さんにお話しを聞きました。


プロトタイプのデモストレーションをしている代表の玉田さんご夫妻

FIT: BBEDを立ち上げたきっかけを教えてください。
玉田: 17年前の2003年に、バイリンガル・バイカルチュラルろう教育センター(以下、BBED:Bilingual Bicultural Education Center for Deaf Children)を立ち上げました。個人的な話になりますが、実は私の次男が1歳9カ月ごろにろう児だとわかり、若いろう者たちが自発的に運営していたデフ・フリースクール「龍の子学園」に通っていました。

当時、日本のろう学校では、手話での教育がなされておらず、ろう者を聞こえる人と同じように聞いたり話したりできる状態に近づけようとする口話教育が良いとされていました。聞こえない人は、自分の声が聞こえない、認識できないのだから話すことはできません。私は手話で次男を育てたかったので、一体どうやって次男とコミュニケーションをとったら良いのか、途方にくれました。

そこでまず、次男が通っていた「龍の子学園」のスタッフと相談して、NPO法人バイリンガル・バイカルチュラルろう教育センターを設立し、フリースクールの活動を安定させました。それと同時に、公立でも手話で教育を受けられるようにしようと国や東京都に働きかけたのですが叶わず、2008年に東京都の教育特区として新たに日本手話で学ぶ私立ろう学校「学校法人 明晴学園」を設立しました。


FIT: 主な事業内容を教えてください。
玉田: 私たちはろう児(聞こえない子、聞こえにくい子)が日本手話と書記日本語(読み書き)の2言語で教育を受けることを支援しています。

新生児1000人に1、2名の割合で聞こえにくい子どもが生まれる可能性はある、という統計もあります。両親は聞こえるのに聴覚障がいのある子供が突然我が家にやってきた、親御さんは当然戸惑い、不安になりますよね。そのために、聞こえにくいお子さんをお持ちのご家族を対象に、直接お会いして子育て、教育相談、ご家族対象の日本手話教室などを開催しています。

また情報提供、交流会、学習会や講演会の企画、専門家や企業との共同研究、日本手話を広める書籍や動画の作成、普通高校で学ぶろうの高校生への情報保障「遠隔文字通訳システム」、バイリンガルろう教育に関するデータ収集などにも取り組んでいます。

FIT: 「日本手話」について詳しく教えてください。
玉田: ろう者が使う「日本手話」は、日本語とは別の言語です。彼らが100%理解できる自然言語で、母語です。

あまり知られてはいないのですが、「日本手話」は独特の文法体系をもっていて、日本語とは語順も違います。手の形、場所、動きに意味があるだけでなく、肩の向きやちょっとした顔の表情や角度、眉や口の動きなどが文法になっています。

一方「日本語対応手話」は、日本語を話ながら同時に手話の単語を並べたもので、日本手話の文法はありません。日本語対応手話の原型は聞こえる人によって作られているため、ろう児には不自然に感じ、理解しにくいものなのです。日本では100近い数のろう学校がありますが、ろう者の第1言語の日本手話で授業を行っているところは少なく、多くは日本語対応手話を使っています。

FIT: それはなぜですか?
玉田: ろう者への教育は昭和8年から80年間ほど口話のみで行っていて手話は禁止されていました。手話を使うと日本語を覚えられなくなるという考えがあったからです。「補聴器をつけて聞こえにくい耳で聞き、口形を真似て声を出す」という考えが教育の基本となっていました。これは、聴者(聞こえる人)と同じように聞く・話すことを良しとし、目標としているもので、日本語での会話に多くの時間を割いてきたことで、ろう者は十分な学力を身に付けてくることが出来なかったのです。

FIT: 手話に日本手話と日本語対応手話という種類があるとは知りませんでした。課題だと感じていることはありますか。
玉田: 聞こえない90パーセントの子どもが聞こえる親から生まれてくると言われています。親としては、大きくなったときに少しでも聞こえたほうがいいだろう、完全でなくても聞こえるようになって欲しい、と聞こえることを望んでしまいます。私たちも最初はそうでした。

お医者さんも人工内耳を勧めてきますが、人工内耳をしても聴者になるわけではなく、聞こえの程度が変わるだけです。例えば、重度難聴が軽度難聴になっても、問題が軽度になるわけではありません。

軽度難聴になって「リンゴ」という単語は言えるようになったとします。でもリンゴって何でしょう? 寒い季節に寒い地方で実るくだもので、赤いけれどスイカとは違う、形は似ているけど梨とは違うとういことがわからないと「リンゴ」という語彙を理解したことにはなりません。言葉だけ知っていても概念が育っていないと「分かる」にはならないのです。

上手にしゃべる子どもの中には、オウム返しのように聞いたままをしゃべっているだけで、意味を分かって話しているわけではない場合も少なくありません。深い話をしたり、人の気持ちを察することができるようになるためには、たくさんの意味のある会話と体験を通じて概念を育てていく必要があるのです。

FIT: FITの支援金の活用用途を教えてください。
玉田: “手話から引ける”AI辞典の開発をします。AIが手話を認識し読み取って日本語の候補と例文を画面に表示するもので、ろう児が作文や文章を書くときに使うことを目的としています。現在はプロトタイプを開発中ですが、まずはフォーマルでベーシックな日本手話でサンプルを集めて解析を進めています。
単語ごとにサンプル動作を日本手話ネイティブの人から集めます。まずは認識しやすい大きな動きの単語を選定します。CL(類辞、類別詞と呼ばれる手話特有の表現方法。Classifierの略)との組み合わせなどもあり、サンプル集めは途方もない作業です。

本プロジェクトの初年度の予定では10語程度の認識をさせるように計画をしました。もちろん、実用化には10語では足りず、最終的には約100語をめざしたいと考えています。まだまだこれからですが、今後につながる初めの一歩に着手できたので、FITには本当に感謝しています。

FIT: 今後の活動の目標や展開を教えてください。
玉田: ろう児は手話で話す「目の子」。聞こえる人とは対等の立場であり、違う言語で話す人(=手話で話す人)という立場を確立させたくて、私たちは活動をしています。

聞こえない子どもが将来社会に出て働くようになったときに、聞こえる人と対等になって、自分のアイデンティティをもって生きて行って欲しい。手話で話すことが個性として社会に受け入れられ、子ども達がもっている力を発揮でき、正当に評価される社会を創りたい。そのために、BBEDはろう児とその家族への支援、広報、助成金の獲得、行政への働きかけを担っていくことが大切だと考えています。

特定非営利活動法人バイリンガル・バイカルチュラルろう教育センター
http://www.bbed.org/

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