認定特定非営利活動法人横浜こどもホスピスプロジェクト
FIT2021の支援先団体である横浜こどもホスピスプロジェクトは、生命にかかわる病気の子どもと家族が、家庭的な環境の中で豊かな時間を過ごせる「こどもホスピス」の運営、小児緩和ケアの普及活動と人材育成を実践しています。代表の田川 尚登さんと事務局の杉山 真紀さんにお話を伺いました。
うみとそらのおうち 外観
田川さんの経歴と、団体を始めたきっかけを教えてください
自分の次女が6歳の時に、悪性の脳腫瘍で余命半年と診断され、診断5か月後に亡くなったことがきっかけです。娘の最期の時間を楽しく過ごさせてあげられたか自問自答する中で、病院での闘病生活が、子どもの成長や発達を阻害している気がしました。同じような状況にある保護者の方達に自分も寄り添うような活動ができないか、これが娘から与えられた宿題との想いからNPOを立ち上げ、まずは、子どもの付き添いをする家族が宿泊できる施設「リラのいえ」を建てました。その活動の中で「こどもホスピス」に出会い、ある看護師さんの遺贈を引き継ぐ形で、横浜にこどもホスピスを建設する運びとなりました。当時は小児科医の理解もあまりなく反対も多かったのですが、なんとか必要な資金も集まり、2021年に「うみとそらのおうち」の完成に至りました。
杉山さんはいかがでしょうか?
私も9年前に悪性の脳腫瘍で次男を亡くしています。当時参加していた「患者会」で田川さんと知り合い、同じ状況で頑張って活動をされていてとても励みに思いました。子どもを亡くした状況を周りから「不幸」と思われることに違和感を感じていたことや、自分の子どもの「生きた証」「頑張って闘病したこと」を何らかの形で残したい、という気持ちからこのプロジェクトに参加することにしました。
子どもが亡くなった後も親は生きていかなければならず、子どもの終末期の体験がその後の親の人生を大きく左右する例を見てきました。闘病中にお子さんと良い時間を過ごせなかった親御さん達は、その後立ち直れないほど後悔し苦しんでおり、一方で、闘病生活を一緒に「やり切った」「子どもの明るい顔をたくさん見れた」と思える親御さん達は、明るい気持ちでその後の人生を過ごされています。そういうこともあり、「うみとそらのおうち」で本当に楽しそうなお子さんの顔を見ると、ここができて良かったと心から思います。
「こどもホスピス」とは、どんな場所なのでしょうか?
「こどもホスピス」は、生命にかかわる病気のお子さんと家族が一緒に過ごし、子どもにとっては「病気のことを忘れて楽しいことをする場所」、親にとっては、お子さんと思い出を作れる場所、且つ、「状況を理解しているスタッフに寄り添ってもらえる場所」になります。お子さんが亡くなった後も、お子さんが生きていた時間を共有したスタッフが、保護者の方達と「繋がり」続け、支援を続けます。
うみとそらのおうち みんなのホール
田川さんが、立ち上げに当たり最も困難だったこと、また良かったことは何でしたか?
最初の頃は、付き添い家族の滞在施設を作りながら、「院内コンサート」を企画したり、付き添い家族の「預かり保育」をしたり様々な活動をしていました。そんな中、医療者の理解も以前として低い状況にも関わらず、新たに「こどもホスピス」プロジェクトを立ち上げることに対し、多くの既存関係者の理解を得るのに非常に苦労しました。
良かったことは、利用したご家族、特にお子さんの楽しそうな顔を見られることです。今までに20家族くらいご利用がありますが、帰る時に必ず「ああ、本当に楽しかった」という言葉を残してくれていっています。
杉山さんはいかがですか?
日本でまだ2例しかない「こどもホスピス」の運営にあたっては、全て自分達で決めていかなければならないところが大変です。良かったことは、田川さんがおっしゃったことに加え、利用されるお子さんだけでなく、ご家族皆さんに楽しんでもらえていることです。生命にかかわる病気のお子さんがいるご家族は相談できる相手も少なく、家族だけで孤立してしまいがちになります。ここに来てスタッフとたわいもない会話から少し深い話まで、友人のように気負いなく話せてもらえていることが嬉しいです。
利用されるご家族はどのような使い方をされるのでしょうか。
ご家族、祖父母、友人達を招いて誕生日パーティをしたり、宿泊の際は、夕食をお子さんと一緒に作って花火をしたり。この施設には大きなお風呂とミストサウナがありますので、お子さんの介護で多忙な保護者の方達がゆっくりお風呂を利用されている間にスタッフがお子さんを見ているなど、利用されるご家族それぞれが主役となって楽しめるような過ごし方をされています。
利用されるご家族はどこから来られているのでしょうか。
場所柄、神奈川県の方の利用が多いですが、福島県から病院に治療に来られた帰りに利用される方もおります。
FIT資金使途について教えてください。
こどもホスピスを広く知っていただくための広報ツール、例えば教育機関に配布するための冊子や動画の作成にも活用させていただきます。
次にやりたいことはなんですか。
現段階では、国にも「生命にかかわる病気の子どもと家族」を支える仕組みがありません。来年「こども家庭庁」ができますので、国と連携し、日本での「こどもホスピス」を増やすことも含め、今までよりも更に、不治の病の子どもと保護者の支援をしていきたいです。「こどもホスピス」のニーズは多く、全国各地から問い合わせや見学の依頼が来ています。
私たちとして何ができるでしょうか。
コロナの影響で直接この場所で何かして頂くのは難しいかもしれませんが、企業様達の中で「こどもホスピス」への理解を深めて頂く勉強会等をして頂き、多くの皆様に「こどもホスピス」知って考えていただけるような機会をいただけると助かります。コロナの状況が良くなりましたら、是非見学にもいらして下さい。
認定特定非営利活動法人横浜こどもホスピスプロジェクト
https://childrenshospice.yokohama/index.html
田川代表とスタッフの皆様