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NPO法人UPTREE


2017FITチャリティ・ラン支援先団体である「NPO法人UPTREE」は、小金井市を拠点として家族介護者(以下、「ケアラー」。)の気持ちに寄り添った活動をしています。

今回は代表理事の阿久津美栄子さんにお話を伺いました。

FIT: UPTREEさんはどのような活動をなさっているのでしょうか?
阿久津: おもに四つの活動を中心に支援を行っています。

まず一つ目は、ケアラーのための居場所の提供です。将来的には週5日を目指していますが、現時点では3-4日、小金井駅徒歩1分の場所で「介護者家族サロン(ケアラーズカフェ)」を運営しています。ここでは「認知症」、「ガン」の当事者の方やそのご家族の方々、また、障害のあるご家族の「兄弟姉妹」の方々を対象に開いています。特に「ガン」については当事者が一番辛いですが、その想いを共有したり、自分と向き合う時間を設けたりすることは、闘病中は難しいと思います。私自身がガンを患った家族の介護を経験した際、自分の居場所がほしいと感じていたものの、当時はそうした想いに目を向けることさえできませんでした。このサロンにはさまざまな方がいらっしゃいますが、皆さんは話を聞いてくれる居場所がほしいのです。それは私自身の経験からわかったことです。また、障害をもつ方々の「兄弟姉妹」は親御さんよりも長い介護の時間を強いられます。だからこそ、このサロンを運営してくれるサポーターは皆、介護当事者としての経験生かし、ケアラーの方の心に寄り添ったお手伝いを心がけています。ケアラーの皆さまの悩みの共有だけでなく、介護にまつわる知識を共有できるような居場所を提供できればと考えています。


二つ目は、啓蒙事業です。これはケアラーに向けた『介護者手帳』の作成や教育の機会の提供です。「介護者手帳」とは、いわゆる「母子手帳」の介護版を指します。介護の始まりから終末期を迎えるまでの時間を「ロードマップ」を用いて可視化することで、介護に携わるご家族がご自身の立ち位置を理解し、看取りを意識していくことができるのも一つの特徴です。また、手帳に日々の記録を残すことで、介護をしている時間が非常に有意義となり、最期を迎えたのちに思い出のひとつともなります。


三つ目は、情報発信事業です。自治体と連携し、ケアラーのためのヒントとなる地域に寄り添った内容の『介護者新聞』を、配布しています。例えば、3月に発行した新聞では「口腔リハビリテーション」について取り上げていますが、この分野は死別起因の1位と言われている「誤嚥性肺炎」にも関わる重要な内容です。ケアラーはこうした問題に取り組んでいる地元の医療機関や、地域で実施されている情報提供の機会を逃している場合が多々あります。UPTREEはそうしたケアラーにとって役立つ情報を新聞やSNSを通じて発信しています。また、地元地域のケアラーに向けた情報だけでなく、海外に向けても積極的に情報を発信することで、日本における「ロールモデル」の先駆けとなることを目指しています。

四つ目は、企業に向けた研修機会の提供です。UPTREEのもつ知見を企業の人事担当の方や社員の方々向けに実施しています。欧州や米国と比較し、日本ではまだ介護者に対する制度が確立されていません。政府主導の下、米国には38千人ほどの会員を抱え、組織体制が完成されている介護者支援団体もあります。いかに世論を動かして、日本社会全体でケアラーを支援できるかということがUPTREEのミッションの一つであるため、これからも先進事例の研究を続けていきたいです。

FIT: UPTREEを立ち上げたきっかけを教えてください。
阿久津: 私自身がガン患者の両親をもつ介護当事者だったことがきっかけです。

当時は、目の前のことに精一杯で自分自身と向き合う時間を持てずにいました。頼る人や話を打ち明けられる人がおらず、介護に明け暮れ、自分を後回しにしている日々が続き、他の人はどうしているのだろうと孤独に感じていました。両親をガンで亡くしてから、その辛さと初めて向き合うことができました。それから、グリーフケア(死別の後の悲しみや心の整理を行うこと)や介護について勉強をし、自分と同じ経験をしている人が想いを共有できる「居場所」をつくろうと考えました。

もうひとつ大きなきっかけとなったのは震災です。両親の死別から1年も経たない頃に震災があり、自分自身の「死」について現実味を感じました。介護者だったにも関わらず、それまではどこか当事者意識がなかったのだと思います。でも、その「死」が自分にも訪れるということを再認識することで、与えられた時間を有意義に生きたいという思いに至り、UPTREEの始動に際して、ようやく前向きに進むことができました。

FIT: 活動を続けていく上で難しいと感じていることは何でしょうか。
阿久津: 資金集めについては課題認識があります。そもそも日本では寄付文化というものが盛んでなく、欧米と比べて遅れています。持続可能な開発活動を行う為の資金源として、多くの団体は助成金に頼っていますが、そうすると、助成金を出してくれる団体の方針に従う事が求められてしまいます。本当に意義があることや、やりたいことに注力することができず、「やらされ感」が出てしまいます。当初UPTREEの活動も助成金で賄っていましたが、3年間で打ち切りました。助成金制度の下での活動経験もできましたし、制度による資金調達を停止した後の活動の幅も広がったため、結果的には良い経験となりました。

FIT: 今後の目標について教えてください。
阿久津: 今は地域に特化した活動をしていますが、今後は東京都、延いては日本において介護者支援の「ロールモデル」としてUPTREEの活動を浸透させていきたいです。当事者にしか分からないことをどの様に伝えるか、という問題がありますが、これは「教育」の手段が必要だと思います。子どもたちがこのテーマに触れる機会を学校で提供するためにも、きちんと政府の協力(制度)を得られるよう、働きかけていきたいです。

それと、今一番興味があるのは「グリーフキャンプ」といった企画です。米国ではすでに事例があるものですが、ケアラーに対してキャンプ形式で一定期間集中的に対話やセラピー、カウンセリングを実施します。同じ境遇にある参加者たちが集い、想いを共有できるという点で、キャンプは非常に有効であるという調査結果もあります。寄付のみで企画運営を実施し、参加費は無料とするなど、成功している事例を参考にして企画していきたいです。このキャンプのコンセプトもそうですが、海外の事例は参考になるものが多いため、成功している団体との情報共有や研修の機会も得ることができればと考えています。

FIT: FIT寄付金の使途を教えてください。
阿久津: 主に三つあります。
一つ目は家族介護者サロン(ケアラーズカフェ)の改装です。今は飲食店のスペースを間借りしていますが、これをもう少し活用しやすいレイアウトへと変更する予定です。あと、お手洗いも和式なので洋式にしようと計画しています。

二つ目は 介護者手帳の更新版の発行です。介護者手帳は3年ごとに改定される介護保険制度に沿った内容でないと意味を成しません。そのため、最新の制度に沿って常にアップデートを行っていきます。

三つ目は海外での研修と知見の習得です。先ほどお伝えした米国で成功している団体などと情報共有を行い、世界的に進んだ事例をUPTREEにも導入していきたいです。そうすることで、地域だけでなく、日本のケアラーに向けたサポートを手厚くしていきたいと考えています。

FIT: 最後に、FITに参加されるみなさまへのメッセージをお願いします!
阿久津: FITは素晴らしい取り組みだと思います。私たちの活動がもっと前に進むためのきっかけを作ってくれたことに感謝しています。ありがとうございました。FITが支援してくださる団体が活動を推進していけるよう、継続的な支援の仕組みがあるといいな、と思います。より一層社会にとって有意義な活動ができる団体が増えていくのではないでしょうか。今後、FITの活動においてそうした取り組みを検討頂ければ嬉しいです。

NPO 法人UPTREE : http://uptreex2.com/

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