特定非営利活動法人ソーシャルデベロップメントジャパン
(左から)添田みほこ(FIT2017広報チーム)、矢部さん(ソーシャルデベロップメントジャパン 代表)、アン・テイ(FIT2017広報チーム)
「特定非営利活動法人ソーシャルデベロップメントジャパン」は、重症心身障がい児とその家族のための通園施設「FLAP-YARD」を運営している団体です。子どもが子どもらしく、地域の皆によって育つ社会を目指して、近隣の保育園との交流など積極的に係わりを持つ活動も行っています。今回は代表および施設長の矢部弘司さんにお話を伺いました。
FIT:ソーシャルデベロップメントジャパンの立ち上げに至ったきっかけを教えてください。
矢部:イギリス郊外にある知的障がい者のための施設でボランティアをしたことが最初のきっかけです。福祉の仕事に就く前には、雑貨屋で販売員をしていたのですが、ヨーロッパに長期滞在をした時に、偶然イギリスで近所にあった福祉施設を見つけて、ボランティアとして働かせてほしいと直接お願いをしに行きました。言語等の問題もあり、受け入れられるまで紆余曲折ありましたが、半年以上働かせてもらうことができ、日本に帰国するころには福祉をライフワークにしようという決心がついていました。
FIT:イギリスで感じた日本との違いを教えてください。
矢部:イギリスでは、障がい者の発言がとても自由です。日本では、身の回りに大人しかいないため顔色をうかがったりしますが、イギリスでは、恋愛をしたい、一人暮らしをしたいとそれぞれが思いのままに話しています。日本のように障がい者が特別扱いをされるということはなく、地域で当たり前に生活をしています。福祉や障がいについての特別な知識を持っている人以外とも、変わらずに接している社会を体験しました。
FIT:ソーシャルデベロップメントジャパンを立ち上げるにあたって、大きかったハードルは何ですか。
矢部:障がい児(者)福祉の関係者ではない人たちの理解を得ることです。例えば、私たちは保育園との交流の機会を作っていますが、お断りされるということがあります。障がいのない子どもの親御さんたちからのネガティブな意見や、そのような意見を保育園が気にしているためだと思います。「健常児に障がいが移ったらどうするのか」、「障がい者と交流することで健常児にメリットはあるのか」といった声を聴きます。日本では障がい者に対する理解がまだ浅いので、伝える努力をしなければなりません。しかし、コミュニケーションはこちらから一方的に行う形となります。両者から歩み寄る形となればよいですが、まだまだ閉鎖的で、こちらからお願いをする形になっているのが現状で。
FIT:他の団体と一緒に活動することはありますか。
矢部:例えば保育園との合同運動会があります。子どもは子どもの中で育つという場面を提供することが目的です。認知機能にめまぐるしい発達のある子どもは、保育園に行く機会が増えると、一気に運動能力が伸びます。寝たきりだった1歳の子がいたのですが、職員ではなく「健常児のお友だちと同じことしたい」という模倣欲求の変化によって、パッと自分の手を出す、そして手がこんなに便利なものなのだと気付き、運動機能がぐっと伸びました。その子は4歳でハイハイができるようになるだろうと予測していたのですが、5歳の今は歩けるようになっています。子どもの可能性を大人が測ってはならないと痛切に感じました。疲れが吹き飛ぶ瞬間であり、尊い仕事に携わっていると実感します。
病院では、制服もあるので、ケアされる側とケアする側がはっきりと分かれていますが、地域ではそうではありません。もちつもたれつの関係で、親御さんとの距離も近く、生活の伴走者になることができます。障がい児のいるご家庭には、障がい児だけではなく、その兄弟にも影響があります。両親が障がい児にかかりっきりで孤立感が生まれ、悪い意味でいい子になってしまいます。「私にも障がいがあるんだ」という詐病に至ることもあります。障がいを持つ子どもだけでなく、兄弟のケアも我々の大きな責務と感じています。当園は土曜日も開園していますので、積極的に利用していただき、兄弟がご両親を独り占めできる時間を作ってもらいたいと思います。
FIT:利用者の親御さんの思いについて聞かせてください。
矢部:障がいを持つ子どもを産むと、親、特にお母さんは「自分のせいでこの子がこうなってしまった」と自分を責めます。医療の進歩の悪いところですが、「この疾病は母体に原因がある」と判明してしまう疾病も出てきました。親御さんは、わが子の障がいを死ぬまで受け入れないと言われています。お医者さんから告知やリハビリの説明を受けますが、朝目が覚めたら、わが子が何事もなかったように走って笑って自分のもとに駆け寄ってきてくれると、毎朝本気で思っていらっしゃいます。私は、障がいは病気とは違って治るものではないと理解していますが、親御さんは「まだ」歩けない、「まだ」話せないといった表現をされます。言葉の節々から、わが子の障がいを受容していくことはまだまだ高いハードルだと思います。
FIT:矢部さんの個人的な今後の目標を教えてください。
矢部:団体の活動理念に掲げている通り、子どもが子どもの中で育つことが普通になる世の中にすることです。保育園も小学校も、自由に選べて当たり前に入ることができる。障がい児本人も家族も自由に生き方を選択できる。そしてそれが社会から尊重される。最終的には私の仕事がなくなってしまえば一番良いと思っています。
言語障がいがある場合、初対面では何を言っているのかわからないことがありますが、その子の家族は一語一句聞き取ることができます。つまり、それは僕らの聴覚障がいですよね。「障がい」なのではなく、その人の特徴を受け入れることのできない社会の未熟さに課題があると捉えています。障がい者が合わせるのではなく、健常者が合わせる。そちらの方がよっぽど早いですよね。
(左から)ソーシャルデベロップメントジャパン 代表の矢部さん、スタッフの星川さん、大高さん、平山さん