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​​特定非営利活動法人チャイボラ

「子どもたち一人ひとりが大切に育てられる世の中を目指して」。現在社会的養護施設の職員は不足しており、日々子どもたちと向き合う施設職員の十分な確保と定着は大きな課題となっています。特定非営利活動法人チャイボラは、施設職員の確保と定着それぞれの観点から施設をサポートする活動を展開しています。代表理事の大山遥さんにお話を伺いました。

インドスタディツアー施設見学会

大山さんの経歴と、団体を始めたきっかけを教えてください。

当時、私は(株)ベネッセコーポレーションの幼児教育教材部門に勤務していました。リニューアルに伴い古い教材が破棄されていることを知り、児童養護施設に寄付できないかと問い合わせをしました。喜ばれると思っていたのですが、逆にいかに自分が子どもたちが置かれている環境について無知であるか思い知らされました。一人の職員さんが8人の子どもを見るのは当たり前、重度の育児放棄下で生まれ育ちトイレで用を足す習慣がない子どもや、暴力が出てしまう子ども達の対応に職員は日々奮闘。「子ども達を安心して眠りにつかせる」ことだけで精一杯な状況下で、勉強の教材が毎月送られてきてもそんなことまでとてもできない、という話を施設職員から聞いたのです。それを聞き、自分は幼児教育に長年携わってきたのに何をやってきたんだろう、教育どころではない状況にある社会の問題になぜ今まで目を向けてこなかったのか、と雷に打たれたようでした。

それから1週間後に辞表を出し、現場の力になれる資格を取るべく、夜間の保育士の学校に通い始めました。その学校生活を送る中で、せっかく授業を通して社会的養護施設への就職に関心を持ったクラスメイト達が、社会的養護施設に関する情報量が少ないことがボトルネックになり施設に繋がることができず、結局幼稚園や保育園等の別の道に進んで行く状況を目の当たりにしました。ここを打破できれば、興味のある学生を施設に繋げることができるのではないか、施設の職員を増やせるのではないか、と思い、クラスメイトと共に学生と施設を繋ぐ活動を始めたのがチャイボラの始まりです。初めは、月1回施設での遊びボランティアを実施するサークル活動として開始し、徐々に施設の見学や職員との交流も実施するようになり、次第に就職にも繋がり始めました。そして、1年後にはNPOの法人格を取得し、今年でちょうど5周年になります。

インドスタディツアー児童養護施設で勤務する大山代表

立ち上げにあたり、最も困難だったこと、また良かったことは何でしたか?

困難だったことは、施設職員との無意識の壁でしょうか。ベネッセというビジネスセクターから来て、福祉を知らない人間に何ができるんだ、と面と向かって言われたこともあります。初めの頃は毎日泣いていました。ただ、私自身が施設職員になったことにより私の本気度も伝わったようで、格段に理解や信頼を得ることができ、チャイボラの活動も広がっていきました。

現在では口コミだけで全国の児童養護施設の3分の1を私達がサポートしています。施設からも多くの感謝の声を頂いており、施設からの信頼を得て、その施設からまた別の施設を紹介される、という理想的な形になっています。このような状況になるまで5年かかりましたが、今では職員採用の実績が出てきている、というのは良かったことだと思います。

社会的養護施設の職員不足の、最も大きな原因は何だと思いますか?

職員の「確保」に関しては、施設側に「広報予算がない」、「発信力が圧倒的に弱い」ということに尽きると思います。保育や介護、障がい等の領域に比べ、その職種自体がそもそもよく知られていないですし、インターネットで社会的養護施設の仕事を探そうとしても情報が出てきませんでした。一方で、職員の「定着」に関してはまた別の問題で、人間関係の不和で退職される方が最も多いです。この問題に対しては、チャイボラは無料の相談窓口を設けたり、職員同士が交流できる場を設けたりしていますが、これだけでは決定的な解決策にはならないことも認識しています。

発達、知的、愛着等の障がいを抱えた子どもも含め男女混合の20人を一人の職員が見ている過酷な状況では、職員が思い描いていた子ども達へのケアはできず、その結果やりがいが感じられず退職する、という流れが現実としてあるため、やはり職員の「確保」の部分を推進し、職員が潤沢にいる状態にすることが重要だと思います。

出張授業の様子

FITの寄付金の使途について教えてください。

主に当団体の基幹事業である社会的養護施設と求職者をつなげるオンラインプラットフォーム(「チャボナビ」)関連で、4つのことに使わせて頂きました。一つ目は、今まで十分にできていなかったSEO対策です。二つ目は、学生をターゲットにしたインスタグラムの充実で、アカウントの立ち上げや画像の作成等、自分達ではとてもできなかった部分をプロの方にきちんとお支払をしてお願いできることになり、これは本当にありがたかったです。三つ目は、施設職員の方達のインタビュー動画をコンテンツとして流す、という新しい試みです。今まで見えない部分が多い職業だったところ、職員の方が顔も出して直接語る、という業界初の試みは、この業界を志望している人達に大きな安心感を与えるようで、かなり好評です。最後に、「チャボナビ」に、施設の場所を地図上で一覧で見られる、という機能を追加しました。勤務地は就職先を選ぶ際にとても重要な要素の一つだと思いますので、こちらも大変好評です。ありがとうございました。

私たちとしてどんな支援ができますか?

やはりまずは「正しく知る」ことかと思います。日々、辛い児童虐待のニュースが流れていますが、その事件の裏には想像もできないような事実があるはずなんです。私が施設職員になって最も驚いたことは、「子どもが親を想う気持ち」はすさまじい、ということです。虐待があっても子どもにとって親は唯一無二の存在で、その愛情は絶対なのです。私も児童虐待には絶対に反対ですが、その親がそこに至るまでに何があったのか、周りが何かできることはなかったのか、考える必要があると思っています。それをせずに、「ひどい親が起こしたかわいそうな事件」と思うだけでは何の社会課題解決にもなりません。

チャイボラでは無料で1時間、施設の現状や私たちの活動を知ってもらうための「オンライン学習会」を開いています。私達の話を聞くことによって、見える世界やキャッチする情報が大きく変わり、「一生忘れない」「人生観が変わった」という言葉をいただくこともあります。この「知ること」が「社会課題解決」への第一歩だと思うのです。先日も複数の金融機関でランチセッションを行いました。皆さんが知っているような大きな会社でも開催しています。この記事を読んで下さっている方達も、もしご興味がありましたら是非ご連絡下さい。

また、寄付という形でのご支援もありがたいです。チャイボラの活動は寄付によって支えられています。月1,000円から寄付をして頂くことができますので、宜しければこちらのサイトを覗いてみて下さい(https://chaibora.org/support/donation/)。

今後の展望を教えて下さい。

社会的養護施設の人材の「確保」に関しては、あと2年程で全国の8割ほどの施設を「チャボナビ」でカバーできる見通しです。その次のステージは人材の「定着」、更にその次のステージとして「良質な養育環境を整えていく」ということを目指しています。その先として、施設入所には至らないが支援が必要な家庭に、施設からアウトリーチして支援できる状況を作っていきたいと思っています。

キャンプ集合写真[上段中央]代表の大山さん、[その他左上から] FIT2023実行委員の山本、嶋、大西、佐藤

​​特定非営利活動法人チャイボラ
https://chaibora.org/about/

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