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一般社団法人日本パラリンピアンズ協会

パラリンピック日本代表経験者有志による選手会「一般社団法人日本パラリンピアンズ協会」(以下、「協会」)は、自己研鑽やパラリンピックに対する理解・啓発、情報収集のための活動を行っています。今回は、協会事務局長の堀切功さんにお話を伺いました。

堀切さんは、スキー雑誌の編集者・副編集長を務めていた頃から、フリーランスのフォトジャーナリストとして活動する現在まで一貫して、健常者、障害者[1]という視点ではなく、アスリートとしてのパラリンピアン達を追って継続して取材を続けています。また、パラリンピック選手、そしてスポーツ全般への支援、共感、協力の輪が広がることを願い、協会の活動をしていらっしゃいます。


左から田代知子(FIT2017広報チーム)、堀切さん(日本パラリンピアンズ協会事務局長)、デービッド・シェーファー(FIT2017共同実行委員長)、佐川顕子(FIT2017広報チーム)。
背景のSMBC日興証券の障害者アスリートの社員の内、4名はリオ・パラリンピックに出場。

FIT一般社団法人パラリンピアンズ協会について教えてください。
堀切:パラリンピアンとは、パラリンピック競技大会に出場経験のある選手、元選手の総称で、IPC(国際パラリンピック委員会)も使用している言葉です。2003年に発足、2010212日に法人格を取得し、一般社団法人となりました。パラリンピアンズ同士が繋がり、国内外のスポーツ団体、アスリートたちと連携しながら、誰もがスポーツを楽しめる社会の実現に向けて活動しています。

主な活動内容としては以下、3点が挙げられます。ひとつめは、理解啓発事業です。おもに講師の派遣を通してパラリンピック、障害者スポーツを知ってもらう啓蒙活動。以前から講師派遣の要請はありましたが、最近は特に小中学校、企業からのニーズが増えてきています。

ふたつめは、パラリンピアンの自己研鑽事業です。パラリンピアンとしての意識を高める機会を提供し、社会に貢献できる人を増やしていきたいと考えています。具体的な活動として「パラ知ル!カフェ」という協会に所属しているメンバーを対象にした勉強会やセミナーを毎月開催しています。様々な選手が交流し、情報交換する場でもあります。

最後に調査研究事業です。パラリンピック選手の競技環境などの実態調査を通して、パラリンピックを取り巻く環境、パラリンピアンの競技環境の整備について調査・報告をしています。

FIT堀切さんが協会の活動に関ったきっかけを教えてください。
堀切:1998年に長野パラリンピックを取材したことがきっかけです。長野パラリンピックは一つのエポックだったと思っています。当時、私はスキー雑誌の編集者をしており、長野パラリンピックが近づく中、障害者アルペンスキーの取材を始めました。長野で開催されたことで、世の中のパラリンピックに対する関心は一気に高まったのですが、大会が終わった瞬間、パラリンピックに関する報道がパタッと終わってしまいました。多くの方が興味を持ってくださり、パラリンピックや選手の認知度も上がったのですが、継続性がなかった。それがとても残念でした。一過性のスポーツ報道だけで終わりたくない、継続してパラリンピックを追っていきたいと思い、コラムなどで情報発信をしてきました。

その間、選手有志によって日本パラリンピアンズ協会が発足しました。当時はまったくの手作りの団体で、後に法人化することにもなるのですが、とにかくお金がなかったのです(笑)。選手自身による運営も難しくなってきたこともあり、協会設立の中心メンバーである大日方邦子(長野パラリンピック金メダリスト、協会副会長)の身内である私に、事務局業務の白羽の矢がたったわけです。(FIT注記:大日方邦子さんは、堀切さんの奥様)

当時はとにかく限られた予算とリソースの中で運営をしていかなければなりませんでした。東京オリンピック・パラリンピックの招致活動の前頃から事務量が増えてきまして、本格的に運営に携わるようになったのは、2012年頃からです。

FITパラリンピック選手をとりまく環境はどう変わってきていますか?
堀切:協会設立当時とは、環境がだいぶ変わってきていると感じます。選手も変化を感じとっていると思います。

当時は、選手ひとりひとりの立場が弱かった。「弱い」というのは、競技を統括する団体などに対する選手の権利、という意味です。オリンピック選手にくらべて、パラリンピック選手は、競技環境の制限もありましたし、活動資金は基本自費でしたので、選手個人への負担が大きく、「できる人」と「できること」が限られていました。

スポーツ界においては、賞金や入場料を取れるのがプロフェッショナルだと思うのですが、障害者スポーツでは、テニスや車いすマラソン競技は賞金が出ますが、ほかの障害者競技はというと、そこまで追いついていません。パラリンピックを除けば、障害者スポーツが生み出す直接的な金銭のスケールは、まだ小さなものなのです。

では、「何が日本のパラリンピック選手の生活を支えているのか?」というと、選手を雇用しているスポンサー企業です。もともと日本のスポーツ界にあるこの仕組みがパラリンピック選手にも普及してきたおかげで、選手は競技を存続できるようになってきました。トップ選手であれば、遠征やトレーニングなどの競技活動にかかる費用は確保できるようになってきており、経済的な問題はある程度解消されてきています。

20139月の東京五輪招致決定を機に、人々の関心や政府の取組事項などが一気に変化しました。自国開催となるわけですから、2020年に向けて成果をださなければならない、自国選手が活躍しないと盛り上がらないわけです。東京都、組織委員会、国もかなり力をいれてきています。特に国はスポーツ庁をつくり、オリンピック・パラリンピックの管轄を一元化し、パラリンピック競技団体への強化費も増やしました。

FIT昨年のFITからの寄付金はどのように使われていますか?
堀切:支援していただいた寄付金を3年で使う計画です。今年はまず、一年目の取組みとして、パラリンピアン講師として活動できるメンバーを増やす準備を進めています。先ほどもお伝えしたように、講師派遣の要請は増えてきていますが、パラリンピアン自らがその価値を伝える際に必要となる知識を共有していくためには、より多くの講師を養成する必要があります。

FITの寄付金を勉強会や講座の活動資金として活用し、将来の講師を増やすことで、今後、テーマに応じて各分野の専門家を講師として派遣し、さまざまな見地から学ぶ機会を増やしていくことができるようになります。その積み重ねを経て、将来的には、東京オリンピック・パラリンピックの開催地である首都圏のみにとどまらず、地方からの要請にも応えられるような体制を作りたいという大きな目標も立てています。

FIT協会の課題と今後の展望を教えてください。
堀切:競技環境は、トップ選手に限り整ってきていますが、パラリンピックを目指す選手の環境はまだまだ不十分です。例えば、障害者に対して、一般的な生活レベルでは福祉機器等の助成制度がありますが、スポーツ、競技で使う用具となると多くの場合は自費になります。特に企業の支援を受けられない学生や子供がスポーツ競技に携わる場合は、親が義足や車いすなどといった用具)を何とかしなければなりません。これは、結構な負担です。

こういった状況の中、協会が何かできることはないかということで、一つの試みとして「ネクストパラアスリートスカラーシップ(略称NPAS=エヌパス)」をという奨学金制度を創設し、今年から応募を募りました。パラリンピック出場をめざすアスリート育成を目的とした給付型の奨学金制度です。競技団体や協会のウェブサイトなどを通じて予想以上の応募があり、その中から4名を選出するためには非常に慎重な作業が求められました。

このNPASを継続させ、パラリンピックを目指すアスリートを育成し、次世代にバトンを渡していくことが、今後の課題であると同時に期待でもあります。

障害のある方は、障害があるためにスポーツに触れる機会が失われています。健常者・障害者の隔たりなく、スポーツ人口が増えるような環境が一般的であって欲しい。
そのために協会もパラリンピアンたちも、スポーツを通じて得てきたものを、恩返しの形で社会に還元できるのではないか、と考えています。誰もがスポーツを楽しめる社会の実現に向け、様々な機会を提供し、活動を続けていきたいと思います。

FIT:最後に今年のFITランナーの皆さんに向けてメッセージをお願いします。
堀切:スポーツでつながっているのでFITチャリティ・ランのイベントには親近感があります。現場でランナーの走りを拝見しましたが、皆さん良い走りをしていますね。自分がやっているスポーツだったら、障害者のスポーツ、健常者のスポーツというくくりにとらわれず、きっと興味をもって観覧できると思います。そして、体力のあるランナーの皆さんには、ぜひボランティアとして、パラリンピックのサポートにも携わっていただきたいです。

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