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特定非営利活動法人WELgee(ウェルジー)

FIT2019の支援先団体であるWELgeeは日本にいる難民申請者の社会参画とキャリアを通じたエンパワーメントを目指しています。同団体で、就労伴走事業部を統括する山本菜奈さんにお話を伺いました。


FIT:山本さん自身の経歴を教えて下さい。
山本:自身が、幼少期を米国やドイツで過ごし、学生の頃にはバンクーバーに留学をしました。海外で多種多様な人がともに学び働いているのを目の当たりにしていく中で、日本社会の中での多様性について知りたくなりました。そんな時にまだ活動をはじめたばかりのWELgeeのイベントに参加し、日本に難民として来日している人が一定数いる事実を知って衝撃を受けました。そのイベントに参加し、実際に日本に暮らす難民申請中の人の話を聞き、日本社会と彼らの接点をつくれないかと思ったのがきっかけです。自身も海外で暮らす中で、女性であること、アジア系であることで理不尽や生きづらさを実感してきたことも、彼らの気持ちを理解する一助になったと思います。だからこそ自分が制度やネットワークにアクセスしやすい日本で、社会から孤立してしまっている難民の人たちが活躍できる社会を作るには、私が貢献できる部分かもしれないと思いました。
  
FIT:実際に日本で暮らす難民からどんな声を聞きますか?
山本:日本には外国籍の人々が290万人以上住んでいるにも関わらず、外国籍の人が多いベルリンの街やパリの街を歩くときと比べると、人々の反応が全然違うのです。極端な話ではありますが、電車で横に座るとそれまで座っていた人が席を立ってどこかにいってしまった人が少なくありません。私たちが関わる難民申請者の方々の中には、そうした日常で直面する心の壁に、非常に悲しい思いをしている方もいます。単に肌の色が違う人が横にいるというだけで、多くの日本人は違和感を抱いてしまうのです。職場はもっとシビアです。日本企業にとって、アフリカ出身者を採用して一緒に働くことは、まだまだ一般的ではありません。こういった心理的な壁が高いことに加えて、経験豊富なエンジニアでもない限りは英語だけで仕事をする場面がほとんどないという、言語の壁もあります。

FIT:制度面ではどうですか?
山本:日本の場合、政府による難民認定がすごく厳しいものの、現状日本に逃れてきた難民の人たちの唯一の希望は難民認定しかありません。2019年の日本の難民認定申請者数は10,375人に対し、認定を受けた人はたったの44人です。この制度の壁も越えなくてはならない点です。
WELgeeでかかわっている人々の9割以上が、何年もかかる難民認定申請の結果を待ちながら、在留資格(ビザ)を6か月ごとに更新し続けているのが現状です。ドイツやフランスでは政府から難民として認定される数が、そもそも日本とは違います。これらの国々では、政府による難民認定の数が多いだけでなく、政府が難民の最低限の生活を保証してくれるので、民間の支援団体は、難民の人たちがもっと活き活きと生きられるような環境を作ろうとしています。例えば、エンジニアとしての育成をするなど、より上質な生活が出来るような仕掛けがどんどん生まれているのです。
 
FIT:活動している中で良かったことを教えて下さい。
山本:印象深いのは、アフリカから来て、日系大手バイクメーカーでアフリカと日本をつなぐ新規事業の仕事をすることになった元起業家の難民申請者のケースです。2年前に出会い、別の支援団体のシェルターに入っていた方だったのですが、あるきっかけでWELgeeの就労伴走事業部が運営する伴走型のジョブマッチングサービス「JobCopass(ジョブコーパス)」で伴走することとなりました。WELgeeで日系大手バイクメーカーの新規事業開発部の部長さんとのご縁をいただいたのですが、その会社はちょうどアフリカ市場での新規事業を拡大する計画がありました。アフリカの市場は非常に競争が激しく、日本人だけで飛び込んでも太刀打ちできないので、日本の本社側で優秀なアフリカ出身の若手を採用したがっていたのです。WELgeeから元起業家の方を紹介したところ、企業が求める人材像にフィットしたことで、採用に結びつきました。素晴らしいのは、彼が仕事を得て終わりではなく、その後もWELgeeと頻繁に接点をもち、現在日本でのキャリアアップに向けて頑張っている難民申請中の若者たちに、自らの経験を提供したいと協力してくれています。中東やアフリカ世界各国から日本に難民として逃れてくるという同じ境遇でなければ、決して出会わなかった彼らが、互いにサポートし合える関係にまでなるのは素晴らしいと思いますし、私自身、彼らの山あり谷ありな道のりに身近な理解者として伴走出来ることは、素敵なご縁を頂いていると思います。

FIT:団体として今後の方向性を教えて下さい。
山本:WELgeeとして今後の活動を考える上で、コロナの影響を避けては通れません。今回の新型コロナウイルスのような経済が傾く状況になり、まず雇用を切られるのは難民などの社会的に弱い立場に置かれた人たちです。なんとかこれまで雇用をつないできたのに、あっさりと契約が解除されてしまうのです。彼らを他のアルバイトにつなぐことも出来ますが、それではまた経済危機が訪れた際に、大丈夫と言える保証はありません。それよりも将来の変わりゆく世の中に対応する力を養って、安定した環境で働けるような道筋を難民の人たちに立てていくことが、本当に必要なことだと今回改めて理解できました。
もう一つは、政策提言を通じて、社会の制度を変えていけるような取り組みもしていきたいと思います。緊急事態宣言下で執り行われた特別定額給付金の給付は、日本に住民票のある難民申請者も受給でき、難民を含めた在日外国人への処遇は、着実に前進している部分もあります。難民として日本に逃れてきたスキルと経験、志にあふれた若者たちが、活き活きと日本で暮らし働けるような新たな施策をつくるべく、政府だけでなく産業界や経済界にも、働きかけていきたいと思います。

特定非営利活動法人WELgee(ウェルジー)
https://www.welgee.jp/



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