特定非営利活動法人 5years
2018年FITチャリティ・ラン支援先団体である「特定非営利活動法人 5years」は、日本最大級のがん患者支援団体です。ネット上で「がん患者たちの交流サイト」を運営し、患者が求めている希望・癒し・体験情報を提供しています。今回は理事長の大久保淳一さんにお話を伺いました。
写真は左からシェーファー(FIT広報チーム)、石川さん(5years)、山本さん(同事務局長)、大久保さん(同理事長)、吉田、佐川(ともにFIT広報チーム)
FIT:5yearsを始められたきっかけを教えていただけますか。
大久保:自分が、がんになったときに欲しかったサポートを提供したい、と思ったのがきっかけです。
12年前、重いがんの最終ステージと診断され、医者には5年生存率2割と言われました。奇跡的に助かり、退院後、半年ごとに病院に検査にいく度、先生から「病棟にいる患者さんが大久保さんに会いたがっている」と言われて会いに行きましたが、手を握ったり励ましの言葉をかけたりすることしかできませんでした。その後会社に復帰し、病気になる前から走っていた100Kマラソンも完走できるようになっていく中で「生かされている理由があるのでは?自分はこのままで良いのか?」と疑問に思いはじめました。50歳になるタイミングだったこともあり、自分で何かをしたいと思い5yearsを始めました。
5yearsをはじめる前に数多くのNPO団体を訪問しました。そんな中、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者とその家族を支援しているPatientsLikeMeというアメリカの団体の存在にたどり着き、ボストンへ行き訪問しました。この団体は、創始者のHeywood3兄弟の末っ子がALSになり、患者の体験情報が必要と考え、先人たちの経験をつなぐために作られた団体です。日本にもそのような仕組みが必要と考え、はじめたのが5yearsです。
FIT:5yearsではどのような活動をなさっているのですか?
大久保:私自身の体験を基にがんになった人には希望が必要と考え、治療中の患者さん、ご家族、治療が終了した患者さんのための交流サイトを2015年2月に開設しました。開始から4年半で約7400人のプロフィール情報がデータベースに登録されました。
今の社会、がんの告知を受けた人が、自分と同じ体験を先にした人と出会うのは難しいのが現状です。だから、自分と同じがん体験をした人と出会える、そういうインフラを作るつもりで展開しています。また、インターネットで情報を集めようとすると、病気と治療についての情報や闘病中の方のブログが多く、実際の生活についての情報や、また病気が治って社会復帰した人の情報を得ることは難しいです。辞書のように求めている情報を検索したり、参考になる情報が見つかれば追加質問が出来たりと、他では入手できない体験情報を、同じがん経験をした人に聞けるのが特徴だと思っています。
FIT:課題とお感じになったことは何でしょうか。
大久保:5yearsを始めた当初、説明会を開催してもがん患者の方たちには、「大久保さんのやりたいことは分かるけど、うまくいかないよ」と言われました。他人の情報は知りたいけど、自分の情報は渡したくないというのです。
私はがん患者に必要なものは、その後の人生についての希望や、あなた一人ではないという孤独感からの癒し、そして体験情報の3つだと考えています。その中でも特に、治った人の体験情報が患者さんにとっての一番の希望になると考えています。実際はひとりの戦いだけど仲間がいるから孤独じゃない、という気持ちを持ってもらえたらと思っています。
アメリカなどの外国と比べて、日本ではがんがタブー視される傾向があります。実際、年間100万人が、がんになる時代ですが、それを外に公表する人は僅かです。
だから、登録者を増やすことが大変でした。喫茶店などで一人ひとりに会って、スマホで見せて登録をしてもらうことを繰り返すうちに、少しずつ人数が増えていきました。人数が増えると信用が得られてさらに増え、またメディアでも報じられたことをきっかけに大きく増えました。
FIT:サービスの特徴としてはどんなことが挙げられますか。
大久保:登録の際にニックネームと本名、好きな方で表示できるように選ぶことができます。情報を多く登録すればするほど、他の人の情報を見られる範囲が広がる仕組みになっています。最初はまず登録して使っていくことで、徐々に情報開示していく人が多いです。使い方としては、たとえば「今日検査を受けました」などのコメントを載せると、それを見た誰かが、いいね!と反応してくれることで孤独感がなくなります。「みんなの広場」という掲示板では、治療・病気に関するコミュニケーションはNGとしており、あくまでも、社会復帰に必要な情報の交流サイトという立場をとっています。
宗教や霊感商法の勧誘をする人が現れるなどのトラブルを防ぐため、ピアツーピア(*1)でのやり取りはできない仕組みにしてあります。サイトの雰囲気作りを重視しており、サイト運営や日々のモニタリングに力を注いでいます。山本さんと石川さんにお手伝いしていただき、少数精鋭の組織で運営を行っています。
FIT:やりがいを感じるのはどんなときですか。
大久保:日々のモニタリングをしているときに、感謝のコメントを見つけたときです。苦労が報われた気持ちになります。
FIT:今後の活動計画を教えてください。
大久保:今、団体としての課題が大きく2つあります。更に登録者を増やしたいということ、と事業の収益化です。
1つ目の登録者を増やしたいというのは、がんには50以上の種類があるので、同じがんで、年齢、性別、職業も同じ人からの情報が最も参考になると考えています。提供する情報を細分化するためには登録者を増やす必要がありますので、認知度を高めるのが鍵だと思っています。
2つ目ですが、寄付だけに頼るのではなく、事業収益化して継続する仕組みを作りたいと考えています。なぜなら、寄付にだけ頼ったNPO法人が、財務上に活動継続が難しくなる例を多くみてきたからです。私たちの事業化の一つとして、MillionsLifeという5yearsの兄弟サイトがあります。こちらは会員間の交流ではなく、社会復帰した人たちのインタビューを私が実施して掲載しています。実名・顔写真付きで掲載することでより共感できるサイトとなっています。アクセス数を伸ばして広告収入につなげたいと考えています。
もう一つ、企業内に5yearsを作りたいと考えています。私が復職したとき、社内で過去にがんになって復職した人たちがメンターになってくれて、とても心強く安心できました。法人企業と組んで5years内にその企業の社員限定のウェブサイトを作りたいと計画中です。
今後はこの企業内5yearsの実現と、また現在年2回東京と大阪で実施しているオフ会を大規模で実施するか頻度を増やしたいと思います。
FIT: FITからのご支援はどのようなことにお役立ていただけますか。
大久保:オフ会の実施を通じて、5yearsを通して知り合った人たちが、実際に会ってリアルな繋がりを求めていることが分かりました。がん患者にとってがんを克服した人は、マイヒーロー・マイヒロインなのです。オフ会だけでなく、会いたいときにもっと気軽に会えるような場所として5yearsの常設サロンを作りたいと考えています。現在は物件を探していますが、家賃を安定的に支払える財務体制整備も必要と考えています。
FIT:最後にFITの参加者・支援者・スポンサー企業へのメッセージをお願いいたします。
大久保:FITは、活動団体の認知度と活動資金という、1番必要なものを提供してくださる素晴らしい活動です。社会課題に取り組んでいる多くの団体は最初の数年が生き残れるかの勝負なのですが、CSRに取り組んでいる法人企業からは中々支援を受けられません。団体の活動年数が短いからとか、寄付者が税控除を受けられる認定NPOではないからというのが理由です。認知度が低く資金調達に苦労している団体に対して、このような規模で資金提供してくださるのは、FITだけだと思います。FITは、社会活動団体のインキュベーター(*2)的な存在です。そのFITのフィロソフィーを理解して支援されている企業・参加者は素晴らしいと思います。FITにはとても感謝致しておりますが、FITを通じてNPO法人5yearsを支援して下さった皆さんにも、この場をお借りして心より御礼申し上げます。
*1: 当事者同士
*2: 起業活動を支援する事業者