一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会
2017年FITチャリティ・ラン支援先団体である「一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会」は、超高齢少子化多死社会において人生の最終段階に関わる人材の育成と普及啓発活動を行っています。
今回は事務局長の千田恵子さんにお話を伺いました。
写真左より今回インタビューを担当した山崎亮(FIT広報チーム)エンドオブライフ・ケア協会事務局長の千田恵子さん、添田みほ子(FIT広報チーム)
FIT: 活動をはじめたきっかけを教えてください。
千田: 団塊の世代がすべて後期高齢者になる2025年まであと10年ほどとなった2013年、理事の小澤が、地域で看取りに対応できる人材を育成することから活動をはじめました。今後、生産年齢人口は減少していく一方で、高齢者の割合は増えていく。一方、病気になって、やがてお迎えが近くなっても、住み慣れた自宅や施設で暮らし続けたいというニーズは高まっている。現在は約7割の方が病院で最期を迎えますが、今後、この割合が変わっていくことを考えたときに、地域で最期まで関われる人が不足しており、育てていく必要性を感じたからです。小澤の手の届く範囲の患者さん・ご家族だけではなく、手の届かないところでも課題は溢れており、全国的に人材を育成していく仕組みを作ることが必要と考え、2015年に法人を設立するに至りました。
FIT: 千田さんが活動に携わったきっかけはどのようなものでしょうか
千田: 私自身が両親を亡くした時期と前後して、小澤と知り合ったことがきっかけでした。もともと企業向け人材育成や新規事業立ち上げの仕事をしていたので、その経験を活かし、エンドオブライフ・ケア協会の構想の段階から関わっています。実現を支援するつもりで最初は話を聴いていました。しかし、これは私がやることだ、という直感も同時にあり、気づいたら、いろんな方にご支援いただきながら、自分ごととして仕組みづくりに没頭していました。
FIT:千田さんがその後、活動に深く関わっていきたいと思われたのは、どのような背景があったのでしょうか
千田: 1つは、私たちの活動を通して、講座で学んだ方々個人の変化や、それまで孤軍奮闘されていた人と人とが地域を越えてつながっていく様子などを間近に見るようになって、世の中に必要とされているものに携わっていると感じられたことです。もう1つは、自分がこれまで経験してきたこと、仕事や親を亡くすことを含めて、これらはすべて意味があったのだと、自分で納得できたことがあると思います。実は、難病の父親の遠距離介護をしながら仕事をしているときは、何をしていても中途半端感と自身へのふがいなさがありました。また、父、そして母を続けて見送った後は、なんのために働いているのか、心に穴がぽっかりと開いてしまった感覚がありました。小澤との出会いを経て、エンドオブライフ・ケア協会の活動を通して、その気持ちに対して、「これでよい」という自分への肯定感を持てるようになりました。
そうした経験をする中で、自分の周りにも同じように、親の介護や最期に突然直面して戸惑いを感じている友人知人たちが増えてきて、少しでも自分の経験が役立つのなら力になりたいと思うようになりました。いつかは誰もが自分ごとになるテーマでありながら、目を背けがちであることと思います。ですから、対象者に応じて見せ方を変えながら、エンドオブライフ・ケア協会の活動を通じて、予期せずにやってくる解決困難な苦しみについて、「どのように向き合うのか」を伝えていきたいと思っています。
FIT: どのような活動をされていますか
千田: 超高齢化社会の現代において、人生の最終段階を迎える人が、最期のひとときまで穏やかに過ごせるように、そばにいる人々がどのように関わることができるかを学ぶ2日間の研修「エンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座」を主に行っています。そして子どもたちに対しては、「いのちの授業」という学校への出前授業を通して、苦しみとの向き合い方を学ぶ機会を提供しています。小中高生、専門学校生、予備校生、大学生、そして社会人、ご高齢の方に至るまで、様々な方へ伝える機会をいただきますが、実は中核となるメッセージは同じです。「たとえ解決困難な苦しみを抱えていたとしても、苦しみを通して自身の支えに気づいたとき、人は穏やかさを取り戻し、これからを生きていく力になる。そして関わる人もまた、穏やかさを取り戻す。」団体としての活動は今年で4年目になります。
FIT: どのような内容の研修を行っているのでしょうか。
千田: 「もし目の前に、解決困難な苦しみを抱えた人がいたときに、自分に何ができるのか」という問いを基に、具体的な関わり方を学びます。特に、励ましが通じない、絶望的な状況で、「家族に下の世話になるくらいなら早く死んでしまいたい」「私の苦しみなんて、誰にもわからない」と苦しんでいる人が、たった一人でも、自分の苦しみをわかってくれる人がいることに気づいたとき、その人との関わりを通して、苦しみを抱えながらも穏やかさを取り戻していく。その可能性を、具体的なアプローチとして、事例検討やロールプレイを通して、1つ1つ学んでいきます。
前述のとおり、今後、自宅や施設など住み慣れた地域で最期を迎える人が増えていくときに、特に生活のなかで関わる介護職の方々が、自宅や施設にて自然と命が枯れていくという人間本来の摂理に対面するようになります。点滴を与え続けることなどをせずに、穏やかにいのちを終えていく時期を本人と共に過ごすことになります。そうした、人生最後の期間において、もっとも長い時間を共有することとなる可能性のある介護職の方々の中には「私には何ができるだろう」と死に逝く人と接することに苦手意識を持つ方が少なくありません。そのような専門職の方々向けに「どのように相手の苦しみを受け止めて、穏やかになれるよう援助するか」といったコミュニケーション方法を学んでいただいています。
FIT: 子どもたち向けの「いのちの授業」はどのような内容ですか。
千田: 「解決困難などうしようもない苦しみとどう向き合うのか」、そして「苦しんでいる友人がいたらどう気づき、何をしてあげられるのか」といったお話をさせていただいています。何かに苦しんでいるときには、それを解決しようとするものですが、中には解決できない苦しみもあると思います。たとえば、試合で自分がエラーをしてしまったことでチームが負けてしまったとします。時間は過去に戻せません。なんでエラーしてしまったのだろう、なんで自分が、というその苦しみは、解決することができず、残り続けるかもしれません。しかし、その苦しみから何を学ぶのか。苦しみがありながら、なお穏やかになれるために、何があるとよいのか。具体的な言葉にすることを学びます。たとえば、今回は勝てなかったかもしれないけれど、反省会を通して仲間や監督からの温かい言葉に救われたこと、つらくても毎日遅くまで練習してきたこと、そして次はもっと仲間を信頼して任せてみよう、などといったことです。
「いのちは大切」。そのことは、子どもも頭ではわかっています。でも、苦しくて仕方がないときに、自分や誰かを傷つけてしまうことがある。どうしたら、傷つけずにすむのか。それには、自分や誰かの苦しみにまず気づくこと。そして解決ができることは解決すること。解決できないことであったとしても、その苦しみから学ぶ支えに気づき、強めていくこと。たとえうまくいかないことがあっても、「これでよい」と自分を認めること。この過程で大切なのが、自分の苦しみを、たった一人でも、「わかってくれる人」。そのような人が、子どもからお年寄りまで、地域に増えていくことを、願っています。
FIT: 今後の活動やチャレンジしていきたいことについて教えてください。
千田: 現在、力をいれて取り組んでいることは、当協会認定の「ファシリテーター」が出前で「いのちの授業」を実施するためのツールを開発、整備することです。小澤は「いのちの授業」を2000年から子どもたち向けには600回以上行ってきました。当時小澤はホスピスの勤務医であったのですが、小学校などに招かれ、一人で授業を実施していました。
当協会の主たる事業である援助者養成基礎講座の受講者は、設立から3年間で3,000名となり、「ファシリテーター」として各地で学びのコミュニティを作る人が100名います。この方々がまずは各地域・コミュニティにおいてそれぞれ「いのちの授業」を行えるような体制を構築していこうとしています。小澤一人で「いのちの授業」を続けていくことには限界がありますので、ほかの講師でも「いのちの授業」を行えるように、標準的なプログラムの作成を始めています。このプログラムは今年の秋の完成を目指していますが、8月19日には親子向けの体験会も開催予定です。ご関心のある方にはぜひお集まりいただきたいです。
また、どのような研修も同じことが言えるかと思いますが、一度受講して終わりではなく、その後日常生活や現場に戻ったときに、いかに学んだことを適用できるか、自分や周囲を進化させていけるかが、研修の価値として問われることと思います。それぞれの地域・コミュニティにおける授業を通じて、受講者が変化していくような事例を集め、知見として蓄えていくことで、継続的に学び続けていけるプラットフォームとして確立していくことが近い将来の目標です。「いのちの授業」の内容は看取りの現場以外でも、苦しみと向きあう多様な場面で応用できると考えています。そうした多様なケースを集め、共有できるようにしていきたいです。
FIT: FITやFIT参加者へのメッセージを願いします。
千田: FIT寄付先団体に決定したことで、「ファシリテーター」による「いのちの授業」の開発、整備に踏み切ることができました。今回の寄付がなければ、壮大なプロジェクトを始める覚悟を決めることができませんでした。どうもありがとうございました。「いのちの授業」でお伝えしていることは、いつか皆さま一人一人が当事者となって必ず向き合う内容です。少しでも興味があればぜひ私どもの活動をのぞいてみてください。また現在はプロジェクトに関わっていただける人も募集していますので、ホームページをご覧の上ご連絡ください。
一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会 https://endoflifecare.or.jp/