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NPO法人みんなのことば

2017年支援先団体として選ばれたNPO法人みんなのことばは6歳までの子どもの感性を育てる、五感で体感できる参加型クラシックプログラム「みんなのコンサート」を、幼稚園・保育園・イベントなどで開催し、音楽で子どもの心を育てる活動をしているNPO法人です。代表理事の渡邊悠子さんにお話を伺いました。


左から、今回インタビューを担当した野角采加(FIT広報チーム)、代表理事の渡邊悠子さん、および佐川顕子 (FIT広報チーム)

FITみんなのことばを始めたきっかけを教えてください。
渡邊:大学生のときにインターンとして始めた結婚式やイベントへ音楽家をコーディネートする仕事がきっかけです。3ヶ月の予定のインターンでしたが、初めての仕事が予想以上に楽しく、どんどんのめり込んでインターンからアルバイトになり、1年が経ちました。当時その会社の社長だった女性が「私はこの会社をやめて次の会社を立ち上げるので、この会社の社長をやりたい人いませんか?」と、社内へ問いかけがありました。学生だった私は怖いもの知らずでしたので、手を挙げました!それから4年間苦労しながら社長を続けてきました。

音楽家をコーディネートする仕事なので、BGMの生演奏はもちろん大事なのですが、BGMだと生身の人間が演奏していてもCDでもあまり大きな差はなく、演奏する側にも、聴く側にも、弾き甲斐や、聴き甲斐があまりないと感じました。ところが、ある幼稚園から生演奏の依頼を受けた時、生演奏とそれを聴く子どもとの間に大きな化学反応があることに気づきました。子ども達はもちろんテレビでバイオリンの演奏などは見たことがあるはずですが、生の音の振動が空気を伝わってそれを肌で感じ、演奏者の表情や息遣いの全てを感じるというのは、多くの子ども達にとっては初めての体験だったと思います。その時の子ども達の「わーっ!」っという表情や目の輝き、人生が変わるような原体験の瞬間に触れて、結婚式やイベントでのBGMでは感じられなかった生演奏の力、生演奏が活きる場所について考えるようになりました。

あるとき新聞で「楽器を手にする子どもは武器を手にしない」というスローガンが目にとまりました。当時コロンビアのウリベ大統領の、コロンビアの治安を回復させるために音楽学校を増やす政策のスローガンでした。この言葉に気付かされたのは、音楽はコミュニケーションツールでもあるということです。言葉や目の色、肌の色が違っていても、同じ音楽を奏でるだけで、極端に言ってしまうと、相手を殺そうとは思わないわけです。生演奏と子ども達の化学反応を見てきた私は、この化学反応が子ども達の心を豊かにして、平和への一歩に近づけると確信し「私は音楽を子ども達に届たい!」と強く思いました。

FIT渡邊さんの進む道が見えてきたのですね。そこからは順調に進んでこれましたか?
渡邊:始めてすぐに大きな問題に直面しました。幼稚園や保育園には、音楽家を呼べる予算は全く無いということでした。株式会社として運営してきたので、まずは幼稚園や保育園に営業に行きました。そこで言われたのは、音楽家を呼べるような予算はなく、ボランティアしか受け入れられない、ということでした。そこで、スポンサーを探して、無料の親子コンサートを大きなホールで開きました。席は一瞬で埋まり、親御さんは子ども達に音楽を聴かせてあげたいと思っているのだと感じました。しかし現実は、クラシックコンサートに子どもは入れませんし、幼稚園や保育園には予算がありません。

結婚式やイベントの生演奏をコーディネートする会社は他にもあります。私は、社長を別の人に引き継ぎ、スポンサーの力を借りながらNPO法人として子ども達に生演奏を届ける活動を始めることにしました。ちょうど10年前のことです。

FITNPO法人として始めてから、予算の壁をどのように乗り越えたのでしょうか?
渡邊:NPO法人は寄付金が集めやすいと思っていたら、大間違いでした。今もまだまだ予算の課題には取り組んでいるところです。株式会社だった時に、スポンサーを募って無料のコンサートを開催できた経験があっただけに、NPO法人にしたらもっと簡単に寄付金が集まるだろうと楽観的に思っていました。ところが、2009年にリーマンショックがあったこともあり、全く上手くいきませんでした。NPO法人であっても活動の効果や、スポンサーとなった企業が得られるメリットなどを、数値で出すよう求められました。子ども達への思いだけで進んできた私にとっては、効果やメリットを数値で出すことに考えを切り替えることは難しかったです。今でもまだまだ出来ていません。

私は「思い」先行で進んできていて、子ども達の心を動かす生演奏を届けたいと思っています。たくさんの生演奏を見てきた私は、いろいろな生演奏の形があることを知っています。もちろん大きなホールでの生演奏も素晴らしいです。ですが、実際に心が動くような肌で感じる音の振動を子ども達に伝えようと思ったとき、子ども達と演奏家の距離の近さ、選曲、プログラム構成など、全てを子ども達のためだけに作りあげなければいけません。すると、どうしてもコンサートが小規模なものになってしまい、スポンサー企業にメリットとなるような大規模な宣伝やリターンは難しいのです。今回FITのように、意味や思いを理解してくださって支援をいただけるということは本当に有難いと思っています。

FITそうなると、音楽家を見つけてくるのも難しいのでは?
渡邊:音楽家の方はしっかりと見極めさせていただいています。まず演奏のクオリティは最低限必要です。ですが、クオリティだけでなく、私たちの子どもたちへの思いも理解し、その思いを演奏にのせられるかどうかは、音楽家の方の向き不向きもあります。フリーランスで働くプロの音楽家を面接と実技でオーディションさせていただき、研修も受けてもらっています。ですから、ボランティアではなくフリーランスの方が他の仕事を断ってでもこちらの活動に参加してもらえるように、最低限の謝礼はお支払いしています。

FIT音楽家の方への謝礼だけでなく、コンサートの開催費など、いろいろとコストはかさむと思います。FITの支援金の用途を教えてください。
渡邊:FITの支援金は、発達障がいの子どものためのコンサートの費用に使わせていただきます。私たちの活動は6歳までの子どもを対象にしています。というのも、人の感性は20歳のときの感性を100%としたとき、80%が6歳までに発達すると言われています。6歳までに感性を発達させるためには、五感で感じたことを表現させることが大事です。例えば、何かに触れて「冷たい!」と伝えることで、想像力や表現力を高めます。そしてもう一つは共感してあげることです。「ほんとだ、冷たいね!」と共感を示すことが感性を育てます。

しかし、今の子どもたちはバーチャルな体験が多く、テレビやインターネットを通してバイオリンやフルートを知ってはいてもリアルな体験はありません。だから、私たちは子ども達が場所見知りしないように保育園や幼稚園などいつもの場所に行き、静かにさせてじっとしたまま聴かせるのではなく、自由な表現を引き出す演奏を届けています。子ども達は大きな音に驚いて耳をふさいだり、楽しい音楽に合わせて体を動かしたり、「楽しい!」と目を合わせてきます。そして私たちは「そうだね、楽しいね!」と共感してあげるのです。音楽でコミュニケーションをとるということを凝縮して詰め込んでいます。

FITこのコンサートを体験した子ども達はどのように成長しているのでしょうか?
渡邊:楽器を始める子ども達はやはり多いです。ですが、私たちの目標は楽器を演奏する子どもを増やすことではなく、子ども達の心が豊かになり、感性を育ち、成長してもらうことです。なので、私たちの活動がどんな効果があるのか、数値化を図るのはとても難しいと思っています。コンサートを体験した子ども達の成長はこれからも追いかけていくつもりです。

FITこれからの夢をおしえてください。
渡邊:未就学の子ども達全員にコンサートをたくさん届けたいと思っています。全員に、と決めているので、発達障害や貧困といった特定の子どもにしぼろうとは考えていません。最近は経済の格差だけでなく、体験の格差も問題になっています。予算がない保育園や幼稚園でも、家庭環境に関わらず、すべての子ども達全員が毎年遠足があるのと同じように生演奏に触れる機会を得られるように、届けていきたいと思っています!

FIT最後に、FITに参加されるみなさまへのメッセージをお願いします!
渡邊:心からの感謝を伝えたいです。先ほどもお話した通り、スポンサーを得ることがとても難しい中で、選んでいただいてありがとうございます。FITの趣旨が素晴らしいと思いますし、企業の皆さんが有志で支援先団体を支えていることを広く知ってほしいです。そしてこれからもずっと続けていってほしいな、と思います。ありがとうございました。

みんなのことば http://www.minkoto.org/

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